ふらくちゅえいしょん

いつまで経っても古いロックと少女マンガ漬け

Paul McCartney - NEW

なんというストライクな音のアルバムでしょうか。今まで保っていたアルバムのバランスを違う方向へ向けてくれた素晴らしいアルバムです。

"Back to the Beatles"というPaul McCartneyの事前の発言から"Beatly"な音と言われていた"Tug Of War"のようなアルバムなのか。いやしかし「サイケデリックなロックアルバム」という発言もあったので"Revolver"、"Sgt.Peppers"、"Magical Mystery Tour"のような中期Beatlesのような音か。どちらに転ぶかわからないまま先行して"New"が公開され、後者だと想像していました。

私のブログでも追っていたようにプロモーションで"Save Us"、"New"、"Everybody Out There"、"Queenie Eye"がライブで演奏されたのを聴いて、「はて。サイケデリック感があまり感じられない…」と思いました。3回に渡るプロモーションライブは少しずつサイケ感が増していましたが、どうにも腑に落ちません。

Paul McCartney - 2013-09-22 Iheartradio Music Festival (Pro Shot)

Paul McCartney - 2013-09-23 Jimmy Kimmel Live Hollywood, CA (Webcast / Audience Rec)

Paul McCartney - 2013-10-10 Times Square NY

そんなもやもやを持ちながら日本盤を購入して、ドキドキしながらアンプのボリュームを55(音の振動が床から足で感じられる大きさ)にあわせてプレイしました。

ぶっ飛んだのが"Save Us"。ライブで感じたストレートなロックなんてものでは有りませんでした。カツンカツンと鳴るパーカッション、ファズたっぷりのギターリフ。中盤のディレイたっぷりの叫び。

その驚きは"Alligator"に続きます。エフェクトがかけられたPaulの声に、"
Chaos And Creation In The Backyard"に入っていてもおかしくない、あえて抑揚のないメロディライン。かと思うと、Paulらしいメロディが挟み込まれるけれど、スペーシーな音処理がなされています。練りに練ったアレンジです。

"On My Way To Work"でやっと牧歌的なメロディで一息つくかと思ったら、バスドラとハンドクラップでリズムを強調し、そこに強烈ななんとも言えないギターリフが絡むという、今までにない音作りに驚きます。"OFF THE GROUND"に入っていた"I Owe It All To You"に曲調は非常に雰囲気は似ていますが、牧歌的なのにハードなロックという不思議な感覚です。

息もつかせず、メロトロンでいかにもなイントロの後に始まる"Queenie Eye"。Paulのボーカルはエフェクトがかけられています。記憶が定かではないですが"OFF THE GROUND"の"Biker Like An Icon"以来でしょうか。非常にポップでサイケデリックな曲調でRUTLESの"Cheese And Onion"を思い出しましたが、本家はそれ以上でした。突然変わる曲調、そして最後のリフレインで絶頂に達する前に突然終わってしまう曲。ここまで人を振り回す曲は初めてです。

アコースティックギター2本で始まる"Early Days"で落ち着くかとおもったら、事は単純に終わりません。ころころと変わるアレンジに翻弄されます。しかし、それが自然に受け入れられ、Paulの低い声に安心させられるという不思議な曲です。

先行公開で聞き慣れていた"New"もYouTube音質ではよく聴き取れなかった音の洪水におぼれます。YouTubeでは声があまり出ていないと感じたのですが、そんなことは有りませんでした。先行シングルにふさわしいサイケデリックポップです。コーダの部分はBeach Boysを思い出します。是非ライブでも再現して欲しいところです。

そんなソフトロックな終わりだったのに、ダークなギターにハードなリズム、不安定にさせるコーラス、逆再生ギター?というダウナーな曲調、ブリッジの不思議さ、突然でてくるロックな曲調のメロディに演奏。エンディングの粘っこくもファズの効いたギターソロはもっと聴きたくなります。

プロモーションライブで演奏された"Everybody Out There"がメロディを知っているだけに、ほっとします。それだけ聴くのに緊張を強いられるアルバムです。と思っていたら、単純に終わってくれません。エンディングでのMcCartney Familyを含むコーラス、Paulのひしゃげたシャウトで盛り上がります。おそらくツアータイトルになった曲だと思います。

再び逆再生ギターが鳴らされ、アコースティックギターと左チャンネルからの不思議が音(ギターのループ音?)が印象的な"Hosanna"。そこに切り込むベース。初めてベースを意識しました。それくらい今までの曲は音の洪水でした。リズムと低音が強調されているアルバムなのに、そこに意識がいきません。エンディングのTAPE LOOPSの音も、その音がなければアシッドフォーク的なのに、強引にサイケデリックに持って行きます。

これ以上ないというほど堅いリズムではじまり、またまたエフェクトがかけられたPaulのボーカルの"I Can Bet"。サビではさらにエフェクトがかけられます。ブリッジでは微妙にギターは揺れているし、Moogのソロには驚かされます。それでいて曲は一番ポップなのだからたまりません。

"Looking At Her"は頭を振るわせるような揺れを持ったギターのイントロから、もうなれてしまったボーカルのエフェクト。と思ったら、外されきれいなメロディが歌われ、たと思ったら、もう何の音だか調べる気にもならない奇妙なハードな楽器にのせられ、メロディが高揚し、アコースティックギターのソロ…。もう好きにして下さい…。

アルバムの最後の"Road"。本編最後の曲らしく、エンディングにむけて盛り上がりを見せる曲構成ですが、音作りが緻密すぎて、どんな音が鳴っているのか聴き取れません。中盤からのシャウトも見事です。ベースが同じメロディを演奏したあとの高揚感。そして終わった後の寂寥感。完璧です。きっとコンセプトなんて無いのでしょうが、アルバムのトータル感が半端ないです。

ここからはボーナストラック。1曲目の"Turned Out"。あれ、なんだか普通?。いつものPaulの音が鳴っています。不思議…。よくよく聴いてみると、いろいろな音が詰め込まれているし、決して悪い曲とは思わないのですが、これを本編に入れてしまうと、全く"NEW"というアルバムでは無くなってしまいます。エンディングのピアノの音が物足りないのです…。

ボーナストラック2曲目、"Get Me Out Of Here"はブルース調でリズムが強調された曲です。Rolling Stonesがこんな風にやってもおかしくないかも知れませんが、やはりアルバムには合いません…。

日本盤のみのボーナストラック3曲目、"Struggled"。これはアルバムに入れてもおかしく無さそうです。"PRESS TO PLAY"の"Pretty Little Head"にすこし似ています。こういった曲調、サウンドは大好きなので、収録はうれしい限りです。B面最後あたりのポジションで収録されると面白かった気がします。

シークレットトラックの"Scared"でやっと、やっとシンプルなピアノのバラードです。今までのPaulでしたら、アルバムの最後に入れてメインな曲となりそうなものですが、シークレットトラック扱いとなっています。シークレットトラックなのだからクレジットして欲しくないですよね。クレジットが入っている日本盤のライナーノーツ、ましてやトラックが分かれているなんて、がっかりです。

アルバムを聴き終わった後の感想は、「あぁ、やってしまったのね。Paul。」でした。もちろん良い意味です。

バラードが1曲もない。アコースティックギター弾き語りの曲がない。シンプルなバンド構成の曲がない。ストレートなエイトビートのロックな曲がない。Paulの一般的な魅力と言われているものすべてが無いのです。

2000年代で発売したアルバムの好評さから来るある種のマンネリ、しつこく言われる年齢について、そして、自分自身のチャレンジというが、このアルバムの根底に有ると思います。

マンネリというのはPaulのアルバムに対してのバランス感覚です。ストレートなロック、弾き語り、バラード、覚えやすいメロディ、聞き心地の良いサウンドです。でも一部のファンはFiremanで見られたようなサイケデリックな音を作り出せることを知っています。それが2000年代では受け入れられたのも、Paulに新しい音楽を作らせようとした後押しになったのではないでしょうか。

そう、"PRESS TO PLAY"と状況が良く似ているのです。その時代の新進気鋭プロデューサーと組んで作ったアルバムという点です。"PRESS TO PLAY"との大きな共通点はありますが、一番違うのは難解ではないということだと思います。そして、Beatlesの時がそうだったように、時代自体を自分が作ったサウンドへ強引に持って行こうとする意思があることだと思います。

だからこそ先行公開の"New"でわかりやすいサイケデリックポップという餌と、"Back to the Beatles"という発言で釣っておいて、アルバム"NEW"を聴いた人たちが驚いている顔を見るPaul McCartneyは間違い無く「どや顔」をしていることでしょう。

「これが新しいPaul McCartneyのロックだ」と。


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